新入社員の試用期間は延長できる?
- 営業成績や勤務態度が悪い社員に対し、試用期間を延長することはできるのでしょうか?
- 猶予期間として試用期間の延長を設けている、就業規則の規定がある、社員との合意がある、合理的な期間である、といった要件を満たしていれば、試用期間の延長が認められる可能性が高いでしょう。
- 試用期間延長の要件
- 試用期間の長さ
- 事例詳細
試用期間延長の要件
- 就業規則に試用期間を延長することがある旨や、延長の理由、延長する期間等が記載されている
- 採用時に延長する可能性があることについて合意が成立している
- 延長する合理的な理由や、特段の事情がある
試用期間の長さ
- 試用期間の長さは、法による規定がない
- ただし、労働者の勤務態度や能力、成績等についての判断をするにあたり、合理的な理由もなく不当に長い期間を設けるのは、公序良俗違反として民法第90条により無効になる場合がある
事例詳細
当社は、自動車関連部品の販売を主とした20名程度の中小企業です。今年4月に、2ヶ月間の試用期間を設け、営業職としてAを採用することになりました。
Aはとても元気があり、好感を持てる人物であったため、会社としても頑張ってくれるだろうと思い、採用を決定しました。しかし、実際業務につくと、面接時の元気はなくなり、日がたつにつれ、勤務態度が悪くなっていきました。
1ヶ月半が経過したところで、Aの様子をみると、勤務態度が悪いだけでなく、営業成績についても、当社の基準に著しく達していなかったため、本採用拒否の意見も出ましたが、検討の末、試用期間を2ヶ月間延長することにし、Aを呼び出すことにしました。
A君、この約2ヶ月間の君の仕事ぶりをみていたが、君は勤務態度も悪く、結果も出していない。会社としては、現状では本採用にはできないので、試用期間を2ヶ月延長して様子をみることにするよ。
えっ部長、私は試用期間については、どんなに長くても2ヶ月と思っていたので、それは納得できません。
試用期間については、原則は君がいうように2ヶ月としているが、ほらこの通り就業規則には、試用期間を延長する場合があると書いてあるじゃないか。
確かに就業規則は以前もらいましたが、僕はそのことを知らなかったので、やはり試用期間の延長には納得できません。
さて、上記のケースの場合、試用期間の延長は認められるのでしょうか。
試用期間の延長は認められるのか?
試用期間の延長は、就業規則に延長することがある旨や、延長の理由、延長する期間等が記載されているか、または、採用時に延長する可能性があることについて合意が成立していない限り、原則として認めるべきでないと考えられています。
また、就業規則に試用期間を延長する旨の規定や、採用時に延長することがある旨の合意があったとしても、当然に試用期間を延長することが認められるものではなく、延長する合理的な理由や、特段の事情のある場合に限られます。
裁判例においては、以下のように判示されています。
試用期間の延長が許されるのは、試用期間満了時において、社員として不適格と認められるけれども、本人の今後の態度によっては登用してもよいとして試用の状態を続けていくとき、または、即時不適格と断定することはできないが適格性に疑問があり、本採用することがためらわれる相当な事由があるため、なお選考の期間を必要とするときである。大阪読売新聞社事件 大阪高裁 昭和45.7.10
さらに、試用期間の長さについては、法的に制限されているわけではありませんが、以下のように述べられています。
その趣旨からして、労働者の勤務態度や能力、成績等についての判断をするにあたり、合理的な理由もなく、不当に長い期間を設けるのは、公序良俗違反として民法第90条により無効になる場合がある。ブラザー工業事件 名古屋地裁 昭和59.3.23
以上を踏まえますと、本件についてAの試用期間の延長が認められるかどうかは、以下の事情から、試用期間の延長について認められる可能性が高いと考えます。
- Aの勤務態度がとても悪く、営業成績も基準より著しく下回ったこと
- 本採用拒否も考えられるが、猶予期間として試用期間の延長を設けていること
- 就業規則により延長することがある旨、延長の理由、延長する期間等が記載されていること
- 試用期間を延長する旨を試用期間満了前に伝えていること
- 試用期間2ヶ月と延長期間2ヶ月を通算しても、4ヶ月という、使用される労働者の勤務態度や能力の評価を行うのに必要な期間として合理的な範囲であるということ
試用期間の設定は、会社によってさまざまであり、試用期間中の労働条件(労働時間・賃金等)において、正社員との差を設けている会社も多いかと思います。
そのため、労働者にとっては、試用期間を延長するということは、期待していた賃金がもらえなかったり、不安定な地位が継続するという面もあり、むやみに延長が認められるべきものではありませんが、上記のような問題が生じた際に、スムーズに試用期間を延長するためにも、事前に就業規則等に規定しておくことが、労務管理上適切だと考えます。
試用期間について正しく定めておかないと、不要なトラブルに発展する可能性があります。
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