兼業は就業規則でも禁止できない?
- 会社は、社員の兼業についてどのように対応すればよいのでしょうか?
- 社員に申請を求め、それによる業務支障や会社の信用対面を勘案して、許可するという方法を取ることが必要でしょう。
- 兼業禁止と就業規則
- 就業規則を遵守しない社員への対応
- 事例詳細
兼業禁止と就業規則
- 一般的に、民間企業の場合は兼業は禁止されていない
- ただし、兼業するには、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮した上で、会社の承諾を要するという内容を就業規則に規定することは不当とはいえない
就業規則を遵守しない社員への対応
- いきなり解雇ではなく、まずは出勤停止を上限とした懲戒処分をし、それでも兼業を辞めなければ普通解雇する
- 兼業を承諾する際は、少なくとも、いつ、どの会社で、何時間程度他社で働くという申請を求め、それによる業務支障や会社の信用対面を勘案し、許可するという方法を取ることが必要
事例詳細
株式会社ハッスル(仮名)は、土木・建設事業者で、業績は業種柄、昨今の不景気の影響を受け、前年を大きく下回る勢いで推移しており、従業員の雇用は確保しつつも、人件費の抑制に着手する必要がありました。
しかし、X営業所では、最近、事務員が退職し、その補充のため、応募のあったAさんを正社員として採用しました。
Aさんは、約5年間、事務系の業務に従事してきた経験がありましたが、経営状況を考えると、あまり高額な給料を支払うこともできません。
当初Aさんは、あまり残業をしたくないという希望でしたので、その点は会社も了承し、賃金については来年以降、業績が回復したら昇給するということで、月額20万円でAさんに了承してもらいました。
採用後、Aさんは、テキパキと業務をこなし、勤務態度も良好で、X営業所の貴重な戦力となりました。
ところが、入社して6ヶ月を経過したころから、勤務態度等に少しずつ変化がみられるようになりました。
例えば、これまでは、誰よりも早く出社していたのに、始業時刻の8時ギリギリに出社してきたり、就業時間中に居眠りしたり、たまに残業を依頼しても、用事があるといって帰宅したりすることもありました。
X営業所長は、Aさんの様子が気になり、面談を行いましたが、居眠りや、残業の件については、Aさんは素直に反省し、特に悩みがあるというわけではないということで、面談は終了しました。
その後、Aさんは従前と変わりなく勤務していましたが、とある日に、X営業所の顧客であるY会社のY社長から、X営業所長あてに、電話が入りました。
その内容は、Y社長が偶然入ったクラブで、Aさんが、会計係として働いているのを見たというのです。
この話を受けて、X営業所長は、Aさんに事の真相を聞き出すため、面談をすることにしました。
実は、とある方から電話があって、○○の××というクラブでAさんが働いているのを見かけたというんだよ。本当なのか?
えっ!!! ・・・は、は、はい。で、で、でも、営業所長これは仕方なかったんです。
や、や、やっぱりそうなのか! で、Aさんはその店ではいつ勤務しているんだ?
基本的に、平日に毎日19時から0時まで勤務しています。でも、こちらの勤務が終わった後ですから、問題ないですよね。
確かに当社の終業時間後かも知れないが、就業規則にも兼業禁止の規定があるだろ? 明らかに違反する行為じゃないか。
そもそも就業時間外は、従業員であっても本来は自由な時間であるはずです。特に会社に迷惑をかけていませんし、それに月20万円の給与だと生活もきついんです。
しかし、以前就業時間中に居眠りしたり、残業をお願いしても断ったりということがあったじゃないか。それは、アルバイトが原因なんじゃないのか? 業績が回復したら、Aさんにも残業をしてもらわなくてはいけないんだから、すぐに辞めなさい!
そうなったら辞めます。でも、来年も昇給するかどうか分かりませんし、今すぐ辞めたら生活ができません。
ふーむ。どうしても辞めないというなら、解雇することも検討しなくてはいけないな。
そんな解雇は不当です。もし会社がそうするというのなら、私は会社を訴えますからね!
2人の話し合いは、平行線のまま、結論に至りませんでした。
さて、そもそも兼業を禁止することについて、法律ではどのように考えられるのでしょうか。
就業規則で兼業を全面的に禁止することはできない
民間企業の場合は、公務員と異なり、一般的には兼業は禁止されておらず、その制限や禁止は、就業規則等の具体的な定めによることとされています。
しかし、従業員が労働契約を通じて1日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服することが原則であって、就業時間外は本来従業員の自由な時間であることから、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除いて合理性を欠くとされています。
そうはいっても、従業員がその自由な時間を精神的肉体的疲労回復のために、適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労務提供のための前提であり、会社としても、従業員の自由な時間の利用について関心を持たざるを得ません。
また、兼業の内容によっては、会社の秩序を乱したり、対外的信用、対面が傷つけられる場合もあり得ますので、全面禁止はともかくとして、従業員の兼業の諾否について、労務提供上の支障や、企業秩序への影響等を考慮した上で、会社の承諾を要するという内容を就業規則に規定することは不当とはいえないでしょう。
自社への労務提供に支障が生じているかどうか
今回のケースでは、平日に毎日深夜に及ぶ勤務をしており、アルバイトの域を超えるもので、現に労務提供への支障も生じています。
今後も何らかの支障を来たす可能性が高いといえますから、当該兼業を禁止することには、十分な合理性があるといえるでしょう。
しかしながら、いきなり解雇というのではなく、まずは出勤停止を上限とした懲戒処分をし、それでも兼業を辞めないのであれば、普通解雇するということがよろしいのではないかと思います。
昨今の不況の影響で、従業員の賃金が低下し、その補填としてアルバイトを余儀なくされているという話も耳にします。
難しい問題ですが、従業員の生活も考慮すれば、少なくとも、いつ、どの会社で、何時間程度アルバイトをしたいという申請をしてもらい、それによる業務支障や会社の信用対面を勘案して、許可するという方法を取ることが必要だろうと思います。
兼業などの服務規律について正しく定めておかないと、不要なトラブルに発展する可能性があります。
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