兼業していた社員が会社を訴えてきた!?

兼業している社員が、週の法定労働時間を大幅に超過して働いていたら?
兼業する社員の労働時間を把握するなど、会社には安全配慮義務があります。
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このコンテンツの目次
  • 副業・兼業の注意点
  • 事例詳細

副業・兼業の注意点

  • 健康管理・時間管理のために、副業・兼業の内容を申請・届け出させる
  • 会社が保有する機密情報についての安全性を確保する
  • 労働基準法第38条では異なる事業場で行われた労働時間を通算することとされ、行政解釈では法人が異なる事業場であっても通算するものとされている

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事例詳細

兼業している社員に労働時間について指摘したら・・・

本駒商事は、都内でコンビニなどの小売店を複数運営し、正社員のほか、いわゆるパートタイマーとして勤務する者が在籍する従業員50名程度の会社です。

ある日コンビニの店長をしている社員Aが、パートBについて総務部長に相談してきました。

社員A

Bさんは週5日、基本的には7時30分から16時まで、1日7時間30分のシフトで勤務しているのですが、どうもほかのお店でも働いていたようなんです。

総務部長

うちは兼業は許可制にしているが、Bさんからそういった申請は出てきていない。

社員A

そうですよね、気になるので改めて確認してみます。

 後日、Bさんに直接確認したAから総務部長に、Bが本駒商事での休日と、本駒商事での就労した日の早朝、深夜にも他のコンビニで働いているとの報告がありました。

 総務部長は、労働基準法第38条では異なる事業場で行われた労働時間を通算することとされ、行政解釈では法人が異なる事業場であっても通算するものとされているほか、平成30年に出された『副業・兼業の促進に関するガイドライン』(令和4年7月改定)でも同様の記載があるため、本駒商事の事案も、本駒商事だけの労働時間ではなく他のコンビニで勤務した時間も考慮する必要があることに気が付きました。

 そこで慌ててBを呼び出し、実態を確認すると、Bはこう話しました。

社員B

本駒商事ではこれ以上シフトは増やせないと言われていますし残業もないのですが、それだけだと生活ができないので、他のコンビニでも週5日、主に夜勤をしています。

総務部長

週5日、それだとわが社で働いた日と通算すると、ほぼ毎日働いているということかね、それにほかのコンビニの勤務が終わってから、うちで働いているの?

社員B

休日はないときもありますし、他のコンビニでの仕事は大体18時から翌日の3時30分までですが、その後本駒商事で働いたとしても、コンビニの仕事は好きですし、負担を感じないので大丈夫です。

総務部長

しかしそれだと、1週間で80時間ぐらい働いている計算になるね。そんな働き方をしていると体を壊すし、労働基準法に照らしてもよくない。うちは兼業が許可制でもあるし、他のコンビニの仕事を辞めてもらえないだろうか?

社員B

そんなこと言われても私生活の時間をどうしようと自由ですよね。迷惑もかけてないし。

総務部長

なんだその言い方は、君のためでもあるんだぞ!

とつい大声を出してしまいました。するとBさんは、

社員B

そんなに怖い言い方しないでください、パワハラです!

と言って、出て行ってしまいました。

 そして1週間後、BさんはAさんに適応障害を発症したので3か月の療養を要するとの診断書を提出し欠勤し始めてしまいました。さらには弁護士を通じて、精神疾患を発症したのは本駒商事でのパワハラと長時間労働が原因であり、安全配慮義務に違反しているため、と損害賠償を請求してきました。さて、本駒商事はどうなってしまうのでしょうか。

兼業する社員に対する、会社の安全配慮義務は?

 令和3年10月に出たある判決(大器キャリアキャスティングほか1社事件 大阪地判令3.10.28)があります。その事案は本駒商事と同じように、有期雇用の従業員が自発的に兼業先での仕事も含めて、1か月平均で270時間程度の長時間労働を行ったこと等によりうつ病を発症したとして労災を申請したほか、安全配慮義務違反があったとして本業の会社を訴えたケースです。

 このケースでは、本業の会社がその従業員に対し、労働時間を減らすことを求めたにもかかわらず従業員が自発的に労働時間を増やしていたこと、本業の会社は従業員に労働基準法上の問題があることを指摘し休みを取るように注意していたこと、本業の会社は従業員に兼業先を退職することを求めていたこと、本業の会社は兼業先の会社に対して労働時間を抑制するなどの権限をもっていないこと等から、本業先の会社に安全配慮義務違反はなかったと認めました。

 最近、副業・兼業を認める風潮になってきたものの、本稿では取り上げませんでしたが割増賃金の問題があること、労務管理が複雑化するため慎重な検討が必要といえます。

副業の申請方法など、服務規律について正しく定めておかないと、不要なトラブルに発展する可能性があります。
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