今後も注目!!定年後再雇用の賃金!(2)
- 定年後に再雇用する社員の、賃金を下げることは問題ないのでしょうか?
- 事案にもよりますが、労働契約法第20条の適用があるか、賃金の減額が有効か否かが争点となった例があります。
- 裁判での争点
- 定年後再雇用の実態
- 事例詳細
裁判での争点
- 定年再雇用時の有期雇用契約に労働契約法第20条の適用か
- 労働契約法第20条に照らし合わせて賃金の減額は有効か
定年後再雇用の実態
- 労働政策研究・研修機構の調査(平成25年)によると、調査対象企業のうち83.8%が定年再雇用後の仕事が「定年到達時と同じ」、賃金水準が70%(中央値)である
事例詳細
以前ご紹介した「定年後再雇用の賃金はどうする?(1)」の続編です。大塚運輸のAさんとB部長が再登場です。
定年再雇用と同時に給与が下がることにどうしても納得のいかないAさんでしたが、ある日、地方裁判所が定年再雇用時に、職務内容が同一であるにもかかわらず賃金を引き下げた事例について無効の判決が出たことを知りました。
これは自分のケースにも当てはまると考えたAさんは喜んでB部長に言いました。
部長、半年ぐらい前に定年再雇用のときに賃金を下げたケースで無効の判決が出たみたいじゃないですか、やっぱり自分も仕事の内容も同じだし、そのままにしてくださいよ!
あ~あの事件か、Aさん、気持ちは分かるが、うちの会社は業績もいいわけではないし、運輸業は赤字で、倉庫管理業があるから維持できているんだよ。それにその事件は、会社側が控訴した結果が先日でていて、地裁判決が取り消されてるよ。なんとか我慢してくださいよ。
えーーーっ? まじっすかーーー! 地裁の判決が取り消しですかーーーっ?
さて、前編では長澤運輸事件の地裁判決を取り上げましたが、その後の平成28年11月2日、東京高裁で長澤事件の控訴審判決がでました。
結果は地裁判決から一転して、会社側の主張を認め、賃金の減額を有効としました。
そもそもこの事件は、定年再雇用時に賃金を減額された社員が、当初加入する労働組合を通じて団体交渉で処遇を元に戻すことを求めたものの会社が一部しか認めなかったため、訴訟になった事案でした。
裁判での争点は?
裁判での争点は、主に以下の2つでした。
- 定年再雇用時の有期雇用契約に労働契約法第20条の適用があるかどうか
- 労働契約法第20条に照らし合わせて賃金の減額は有効といえるか
この争点 1.について会社は、定年到達による再雇用契約であるから、有期雇用であることを理由とするものではないと主張しましたが、地裁は会社の主張を採用せず、定年再雇用時であっても労働契約法第20条の適用があるとし、2.については賃金を下げることについて一定の合理性を認めつつ、本事案については定年再雇用前と、再雇用後の職務内容が同一であるところ、会社側の賃金を下げる措置の合理性を裏付ける事情はなく、定年再雇用時に職務内容や異動の範囲が同一であるにもかかわらず、賃金だけを引き下げることが一般的であることを的確に示す証拠がない、としました。
高裁は争点 1.について、地裁と同様に労働契約法第20条の適用を認めましたが、争点 2.については、社会的にも定年再雇用時に賃金が減少するのが一般であり、かつ再雇用後の賃金が概ね定年到達時の70%程度であるとしたうえで、長澤運輸事件の場合については、年収ベースで60万円超の減額があるものの、減額率は一般的な範囲を超えず、また、運輸業の業績が赤字であること、団体交渉を通じて一部の労働条件を改善したことなどから、会社側の措置に合理性があると認めたようです。
これに従えば大塚運輸のB部長が言うことの方が分があることになりそうです。
定年後再雇用の実態
ところで、地裁と高裁で大きく判断が異なった点として、定年再雇用時に職務内容や配置を変えずに賃金だけ減額することが一般的と認めるのかどうか、ということを挙げることができます。
長澤運輸は第一審で(独)労働政策研究・研修機構が、平成26年5月30日に発表した「改正高年齢者雇用安定法の施行に企業はどう対応したか」を証拠として示しました。
調査対象企業のうち83.8%が定年再雇用後の仕事が「定年到達時と同じ」であり、賃金水準が70%(中央値)であると主張したようですが、地裁はその調査でいう「同じ仕事」が労働契約法第20条にいう職務内容が同じであることを意味しているとまでは読み取れないとして、会社の主張を採用しませんでした。
高裁判決ではこの部分が異なっていることは前述の通りですが、人事労務に関する仕事をしている立場からみると、高裁判決のほうが妥当に感じられます。
例えば2013年8月の産労総研調査(2013年中高年齢層の賃金・処遇に関する調査)でも“仕事内容は「60歳前とおおむね同じ」が約8割”、“75%の企業が定年到達時に一括で賃金だけカットし、その際の減額率は平均41.7%“となっています。本件では労働者側は上告したとのことですから、最高裁がどう判断するのか、引き続き注意が必要です。
また、日々の実務においては、就業規則等で定年や再雇用後の賃金について明確にしておき、例えば年金についても一緒に説明会を実施するなど、社員に説明の機会を設けて、認識の齟齬をなくしておくとよいと思います。
定年や再雇用について正しく定めておかないと、不要なトラブルに発展する可能性があります。
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