36協定の過半数代表者が異動した場合

36協定の過半数代表者が異動した場合、協定の効力はどうなるのでしょうか?
協定に失効約款がなければ、過半数代表者が異動しても協定の効力に影響ははありません。
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このコンテンツの目次
  • 過半数代表者でなくなった場合
  • 過半数代表者による協定の破棄
  • 事例詳細

過半数代表者でなくなった場合

  • 「労働者の過半数を代表とするという要件は、協定の成立の要件である」ため、過半数代表者であったものが要件に該当しなくなった際にも、協定の効力に影響はない

過半数代表者による協定の破棄

  • 原則、過半数代表者が一方的に協定の破棄を使用者に申し出たとしても、その申し出は無効になる
  • 例外的に、「一方の破棄通告により失効する」や、「破棄通告の到着後1週間の経過をもって失効する」のような失効約款があれば、協定が失効になる

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事例詳細

当社は、ITサービスを主とした50名程度の中小企業です。年々業績を伸ばしており、この度、隣駅にアプリケーション開発を中心とした事業所を新たに設けることになりました。

そのため、現在本社でアプリケーション開発を行っている部署をそのまま異動させることに決定したところ、それを聞いた同部署に所属しているTさんが異動に対し、強く抗議をしてきました。

T社員

部長、私の部署が隣の駅に移転するっていうのは本当ですか! 私は異動したくありません。

部長

ほほー、Tさんにはどうしても移動できないような、何か特別な事情でもあるのかね?

T社員

自宅からの距離が、今より遠くなるのは嫌ですし、私は先日締結した36協定の従業員の過半数代表者になっているので・・・。

部長

何をいっているんだ、そんな理由が、まかり通るわけないだろう。就業規則にも、業務の都合により、就業場所が変わったり、転勤することがある旨は規定してあるし、たいした距離じゃない。36協定についても、君が異動しても効力はそのまま残るはずだよ。

T社員

それならば、私にも考えがあります。私は従業員の過半数代表者として、その協定は破棄していきますからね。

さて、Tさんは、異動を取り消さなければ、先月締結した36協定を破棄するといっていますが、まず、従業員の過半数代表者が他の事業所に異動した場合、部長が言うように、その効力は残るのものでしょうか。

また、Tさんが、過半数代表者としての要件が満たされなくなる前に、協定の破棄を申し出た場合、その協定を破棄することは可能なのでしょうか。

過半数代表者の該当要件を喪失した場合

今回のように、過半数代表者が他の事業所に異動するケースだけでなく、退職したり、あるいは、監督または管理の地位にある者に該当するようになったり、従業員数の増減等により、過半数代表者としての該当要件を喪失するケースは、通常発生することが想定されます。

こういった場合に、その都度36協定が無効となり、再度その協定を締結し直さなればいけないということは、かなり手間がかかってしまい、とても現実的ではありません。

この点については、行政の解釈としても、「本条が協定当事者の要件として要求している労働者の過半数を代表とするという要件は、協定の成立の要件であるにとどまり、協定の存続要件ではないと解されよう」と述べられています。

よって、今回のように、過半数代表者が他の事業所に異動したとしても、その協定の効力については何も影響がなく、再度、労使協定を締結する必要はないと考えられます(新設事業所では、新たに36協定の締結が必要です)。

協定の破棄はできるのか!?

次に、本人が過半数代表者としての要件を満たさなくなる前に、協定を破棄できるのかという点ですが、36協定の有効期間中においては、「届出の義務者たる使用者が労働者の過半数を代表する者との合意に基づき当該協定を取り下げない限り有効である」(昭和23.9.20 基収2640号)とされており、過半数代表者が一方的に協定の破棄を使用者に申し出たとしても、それは無効になると考えられます。

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しかし、協定の中には「本協定の有効期間中といえども、一方の破棄通告により失効する」ですとか、「破棄通告の到着後1週間の経過をもって失効する」といった旨の失効約款が付いている場合があり、「このような附款はいずれも不法な条件ではないから有効である」(昭和28.7.14 基収2843号)とされています。

したがって、上記のような附款付きの協定の場合は、それにより「例外的に」一方的破棄通告により失効することになりますが、そういった附款がない限りは、有効期間中は一方的に破棄できないことになります。

結局今回の場合は、Tさんの言い分は通らず、このまま異動命令を拒否した場合には、就業規則に定めた懲戒処分の対象となり得ます。

具体的には、会社の命令に対し最終的に応じない場合には、会社が有する人事異動命令権が機能しなくなってしまうため、「懲戒解雇」処分を選択せざるを得ないことになるでしょう。

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