「当然に退職」とみなす誓約書は有効!?
- 退職となることについて合意した誓約書をもって、退職と扱うことは可能なのでしょうか。
- 誓約書の合意に瑕疵があったと主張された場合、誓約書において真の意思表示がされたかについては認めにくいと考えます。しかし、裁判外の実務として、誓約書の内容を交渉材料のひとつとして退職勧奨を行うことが可能です。また退職勧奨に応じなかった場合は、罪に見合う罰を検討し、懲戒処分を課すことがポイントです。
- 労働者による契約の解消
- 意思表示の瑕疵
- 裁判外での手続き
- 事例詳細
労働者による契約の解消
次のパターンは、どちらも労働者からの意思表示が前提としてある。- 労働者から退職の申込の意思表示をし、会社が承諾することによる合意退職。
- 使用者の承諾の有無にかかわらず、労働者の一方的な意思表示により労働契約を解消させる辞職。
意思表示の瑕疵
- 一度、退職となることについて誓約したとしても、その後意思表示が瑕疵があったとして、有効でないと主張することが想定される。認識の不一致や誓約するうえで脅迫があった場合、意思表示は無効、あるいは取り消すことが可能。
- 意思表示の瑕疵については民法93条~96条に定められている。
- 実際、真の意思表示がされたかについては認めにくい。
裁判外での手続き
- 誓約書の内容を一つの交渉材料として退職勧奨を行うことで、円滑に進めることができる。
- 退職勧奨に応じないというケースでは、罪に見合う罰を検討し、けん責処分で構わないので、必ず懲戒処分を課すことが重要。
事例詳細
当社は、都内で広告業を営む30名程度の中小企業です。この度、勤続3年目となるAが、クライアントへの納期を守らず大きなクレームに発展し、それにより生じた損害を支払い、さらにクライアントとの契約が破棄となり、会社に多額の損害を与えることになりました。Aは以前から業務上のミスが多く、どこか抜けているところがあり、度々、注意指導をしてきましたが、なかなか改善が見られませんでした。
社長、今回の件は、会社に与えた損害も大きく、注意指導レベルではなく懲戒処分を検討すべきです。
部長、お疲れ様。そうだなあ、それに対して全く異論はないよ。そして、今後、このようなことがあった場合は、さすがにAをうちにはおいてはおけないな。
解雇という手段も考えられるほどの事案です。社長、対応策としてですが、今回Aには始末書の他、以後、同じようなケースが生じた場合には、退職となる旨の誓約書を提出させ、実際に問題が生じた場合には、当然に退職とみなすっていうのはどうでしょうか。
そうだな。ただ、それは実際に有効な手段なんだろうか。事前に確認しておくように。
さて、部長の考えの通り、誓約書にて今後同様のケースが生じた際は退職することをAが誓約した場合、この誓約書をもって退職と扱うことは可能なのでしょうか。
労働者による退職の意思があるかどうか
労働者から契約の解消を行う場合、労働者から退職の申し込みの意思表示をし、会社がそれを承諾することによる合意退職と、使用者の承諾の有無にかかわらず、労働者の一方的な意思表示により労働契約を解消させる辞職に区分できますが、どちらも前提として、労働者からの意思表示があり、それにより、労働契約の解消が成立することになります。
しかし、この意思表示について、一度、誓約書で、退職となることについて誓約したとしても、後にその意思表示に瑕疵があったとして、その意思表示は、有効ではないと主張されることが想定されます。
なお、意思表示の瑕疵については、民法第93条から第96条に定められています。
今回、Aが本当に納得して会社に対し、退職することを誓約したのであれば、それは有効となりますが、例えば、「Aが本当は退職したくない」ことを会社が理解している上で、Aが退職の意思表示を行った場合や、Aと会社とで退職となるケースの認識に不一致があったり、誓約することを脅迫されたりといった事情がある場合には、その意思表示は無効、あるいは、取り消すことが可能とされています。
誓約書の有効性が問われる可能性がある
したがって、一度、誓約書で、退職となることについて誓約したとしても、その意思表示について、無効、あるいは取り消しを主張された場合には、有効性についての議論が生じてしまうことになり、Aとしては、今後も会社での勤務を希望することを前提とすれば、誓約をせざる得ない状況下であり、真の意思表示がなされたかについては、なかなか認められにくいと考えます。
以上のことから、部長の考えるような法的な効果は期待できないことになりますが、これは裁判になった場合の話です。今後、同様のケースが生じた場合の裁判外の実務として、契約の解消を考えるの あれば、誓約書の内容を交渉材料の一つとして退職勧奨を行うことで、心理的にスムーズに進めることができると考えますので、全く意味がないというわけではないと考えます。
ただ、会社としては、本人が退職勧奨に応じないというケースを想定しておく必要があり、その点でいうと、前述の通り、誓約書の法的効果は期待できませんから、今回の事案に対し、罪に見合う罰を検討し、譴責処分でも構わないので、必ず懲戒処分を科しておくということがポイントです。こうした懲戒処分を科すことは、退職勧奨に応じない場合に解雇を行い、その有効性が問われた際に、有効性を補強する要素(改善の機会の付与)として、とても重要な意味を持つことになります。
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