解雇無効となった社員の裁判中における賃金の取り扱いについて
- 解雇無効となった従業員について、裁判中における賃金の取り扱いはどうなりますか。
- 解雇期間は、労働者は労務を提供する意思があったにもかかわらず、使用者が一方的にその受領を拒否し、就労させなかったとされ、労働者は労務提供の結果である賃金(解雇されていなければ得られたであろう賃金)を受け取る権利を失わないと考えることになります。しかし、解雇期間中に労働者が他社で就労していた場合など例外があります。
- 事例詳細
- 裁判中の賃金について
事例詳細
当社は、都内にある従業員数50名程のIT企業です。1年ほど前に入社したAさんですが、仕事の覚えが悪く、上司がアドバイスをしても反抗的な態度と、会社としては対応に困っていました。
Aさんは、どうにかならないのか?これだけひどいのだから、解雇もできるだろう?
先日、専門家に確認したのですが、裁判となれば認められない可能性が高いとのことです。
Aはこんなにひどいんだぞ、それでもダメなのか?
はい。専門家によると、解雇事由には該当してくるものの、これまでのAの問題行動に対し、当社の注意指導の記録がなく、裁判となれば、いかに会社が改善の機会を与えたかが問われるそうで、その点が不十分とのことです。
そうなのか、しかしAをこのままにもしておけんし・・・。ちなみに裁判となると時間もかかると思うが、解雇無効となった場合、その間の賃金はどうなるんだ?
それは確認してみます。
さて、解雇無効となった場合に、裁判中における賃金の取り扱いについては、どのようになるのでしょうか。
裁判中の賃金は支払う必要がある?
解雇無効という判決が出るまでの間(以下、「解雇期間」という)は、会社はその社員から実際の労務の提供を受けないことになるため、ノーワーク・ノーペイの原則に従えば賃金を支払う必要がないと考えられるかもしれません。しかしながら、この解雇期間は、労働者は労務を提供する意思があったにもかかわらず、使用者が一方的にその受領を拒否し、就労させなかったとされ、労働者は労務提供の結果である賃金(解雇されていなければ得られたであろう賃金)を受け取る権利を失わないと考えることになります。つまり、使用者は実際にその労働者から労務の提供を受けなかったとしても、解雇期間の賃金を支払わなければならないことになります。(民法536条2項前段)
解雇期間中に他社で就労していた場合は?
前述の通り、解雇無効の場合、労働者は、会社が就労させなかった期間の賃金の支払いを求めることができますが、解雇期間中に労働者が他社で就労して現実に得た利益(以下、「中間利益」という)があれば、使用者に償還させることができることになっています。ただし、注意が必要なのは労基法26条のいわゆる休業手当について、使用者の責任により労働者が労務を提供できなかった場合、使用者はその休業期間中、労働者の平均賃金の60%以上の手当を支給しなければならない、とされ、無効となった解雇期間は、これに該当すると考えられます。
そのため、労働者に中間利益があるからといって賃金請求の全額を控除対象とすると、同条の趣旨を没却することになるため、判例上は労働者に中間利益がある場合でも、次のとおりその相当額全額を控除対象とはしない判断しています。
米軍山田部隊事件(最高裁二小 昭37. 7.20)、あけぼのタクシー事件(最高裁一小 昭62. 4. 2)等。
- 解雇期間中に労働者が使用者から受けるべきであった賃金のうち、平均賃金の額の6割を超える部分から、当該賃金の支給の対象とされるべき期間と時期的に対応する期間内(以下、「対応期間内」という)に労働者が他から得た中間利益の額を控除できる。
- それでもなお控除し尽くせない中間利益が残る場合は、さらに対応期間内における平均賃金の算定の基礎とはならない賃金(賞与等)の全額から控除できる。
以上が、解雇無効となった場合の基本的な賃金の考え方となりますが、解雇は、客観的合理的理由と社会通念上の相当性が求められ、権利濫用により無効とされた場合には、このようなリスクが生じるため、慎重に対応する必要があります。
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