アルバイトに対する減給は可能?
- アルバイトに対しても正社員同様に懲戒処分として減給を行うことは可能でしょうか?
- 就業規則に懲戒処分について規定され周知されていれば、アルバイトに対しても懲戒処分として減給を行うことは可能です。
- 減給による最低賃金割れは違法か?
- アルバイトに対して懲戒処分を検討するとき
- 事例詳細
減給による最低賃金割れは違法か?
- 減給により手取り額が最低賃金額を下回ったとしても、それらの控除額に相当する賃金が支払われたことになるので最低賃金法第4条違反には該当しない
- 1回の懲戒事案に対して、減給額が平均賃金の1日分の半額以下であること
- 一賃金支払期に複数の懲戒事案について減給の制裁を行う場合には、その総額が賃金の総額の10分の1以下であること
アルバイトに対して懲戒処分を検討するとき
- あらかじめ就業規則に、懲戒の種別、および事由を定めているか
- 就業規則が事業場の労働者に周知されているか
事例詳細
当社は、洋服の販売を主とした従業員数15名ほどの中小企業です。
最近は人手不足の中、正社員の採用がうまくいかず、この度、初めてアルバイトの募集をかけ、新たに1名を採用しました。
しかし採用したアルバイトAは、先輩社員Bの指導に対し、何かと反抗的で、入社3ヶ月後には、Bの注意指導に対し、かんしゃくを起し、Bを突き飛ばし、けがをさせてしまいました。
君がしたことは責任重大であり、しかるべき措置を取るつもりだ。とりあえず今日は帰りなさい。
大変申訳ございませんでした。深く反省しております。二度といたしません。
そして、翌日のことです。
A君、会社としては君に対し、懲戒解雇も考えていたが、今後勤務態度を改善してくれるのであれば、Bも君を許すというので、減給処分として対応することにするよ。
ありがとうございます。しかし部長、私は、確かに勤務態度を改めるつもりでいるのですが、今の給与から減給してしまうと、最低賃金を割ると思いますし、そもそもアルバイトの私に懲戒処分なんてできるんでしょうか? 減給には納得できません。
さて、減給をした結果、最低賃金額を下回る場合、それは最低賃金法違反となるのでしょうか、またアルバイトに対し、正社員同様に懲戒権は行使できるのでしょうか。
減給と最低賃金は別に考える
まず、最低賃金法第4条では、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない 」と定められています。
しかしこれは、労働契約上において最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないということを意味しており、賃金から労働基準法第24条の認める源泉徴収や社会保険料等の控除を行った結果、その手取りの賃金額が最低賃金額に達しない場合でも、最低賃金法違反とはなりません。また、減給についても同様に考えられます。
そのため、減給により手取り額が最低賃金額を下回ったとしても、それらの控除額に相当する賃金が支払われたことになるので最低賃金法第4条違反には該当しないということになります。
懲戒規定はあらかじめ定めておかなければいけない
次に、最高裁は、使用者が労働者を懲戒することについて、以下のように判断しています。
あらかじめ就業規則において、懲戒の種別、および事由を定めておくことを要する。そして、就業規則が法的規範としての性質を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要するものというべきである
フジ興産事件 最判 平成15.10.10 労判861号5頁
懲戒処分を行う上では、上記手続きが採られているかどうかが重要なポイントになります。
そして、懲戒処分の一つである「減給」は、労働者に対する制裁として、本来ならその労働者の労務提供に対して支払われる賃金から一定額を差し引くことをいいます。
その一定額については、労働基準法91条が適用され、就業規則で労働者に対して減給の制裁を定める場合には、1回の懲戒事案に対して、減給額が平均賃金の1日分の半額以下でないこと、さらに一賃金支払期に複数の懲戒事案について減給の制裁を行う場合には、その総額が賃金の総額の10分の1を超えてはならないこと、が定められています。
以上のことから、今回のような、Bの注意指導に対してAが暴力を振るったという事案は、企業秩序を破壊する重大な企業秩序違反ではあるものの、懲戒処分(減給)の有効性が問われた際には、以下のことが必要となります。
- Aに適用される就業規則があり、周知していること
- 就業規則に定められている「減給」に該当する行為であること
- 減給額は、労働基準法91条に定められている制限額以内であること
これらを満たしている場合は、有効性も高いものといえるでしょう。
減給などの懲戒処分について誤った対応をすると、不要なトラブルに発展する可能性があります。
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