就業規則と競業避止義務
- 就業規則で競業避止義務を課すことはできますか?
- 就業規則によって、一律に競業避止義務を課すことは困難です。会社は、実際に不利益を被った場合には、競業の差止請求、損害賠償請求などの法的措置により、事後的救済を図ることは可能です。
原則、職業選択は自由である
終身雇用制の崩壊に伴い、社員が退職後に競業他社へ就職したり、競業会社を立ち上げたりした場合に、会社のノウハウや機密事項が外部に漏洩してしまう可能性が高まっています。
そこで、企業としては危機管理の一環として退職した社員には競業する会社に就職させないような、義務(競業避止義務)を課そうとするわけです。
在職中については、就業規則や誓約書、雇用契約書等の特約がなくても、在職中の競業他社への就労は、労働契約上の付随的義務に反するとして、当然に禁止されます。
ただ、退職後については、どういう会社に勤めようが、競業会社を立ち上げようがそれは個人の勝手です。他人にとやかく言われることではありません。
これは日本国憲法が、職業選択の自由を基本的人権のひとつとして保障していることからも明らかです。
就業規則にどう規定しようが、原則として、労働者は会社を退職すれば、競業他社に就職しようが独立して競業会社を経営しようが、自由なのです。
しかし、会社の特別な営業秘密等が社外に漏洩することは、大変な打撃になる可能性があります。
そのため、憲法で保障された権利であるとはいっても、会社としては、競業避止義務を課したいと思うでしょう。
特約による競業制限とは?
裁判例では、特約がなければ競業制限をすることはできないとしています。
労働者が雇用関係継続中に習得した業務上の知識、経験、技術は労働者の人格的財産の一部をなすもので、これを退職後にどのように活かして利用していくかは各人の自由に属し、特約もなしにこの自由を拘束することはできない。中部機械製作所事件 金沢地裁判決 昭和43.3.27
しかし、特約があれば、いつでも労働者に競業避止義務を課すことができるということではありません。
特約の有効性が認められるのかについては、裁判所は以下の項目を総合的に見て判断すべきものとしています。
- 競業避止の期間や地域、職種の範囲
- 使用者の利益(企業秘密の保護)と労働者の不利益(転職、再就職の不自由)とのバランス
- 社会的利害(独占集中の恐れとそれに伴う一般消費者の利益)
フォセコ・ジャパン・リミテッド事件 奈良地裁判決 昭和45.10.23
つまり、競業避止義務を課すためには、対象となる労働者の地位ないし職種が限定され、禁止期間が限定(上記の裁判では2年)され、かつ場所的にも限定され、しかも在職中に代償措置としての手当が支給されているという状況が必要だということになります。
就業規則に記載する趣旨
このように考えると、労働者が実際に、競業会社に転職したり、独立自営したことによって、従前の会社に不利益を被らせたり、またはその恐れがあるときは、会社は、競業の差止請求、損害賠償請求、あるいは信用回復の措置などの法的措置により、事後的救済を図ることはできますが、就業規則によって、一律に競業避止義務を課すことは困難と言わざるを得ません。
したがって、就業規則に規定する競業避止義務とは、労働者が競業他社に就職したことにより、自社が打撃を受け多大な損害が発生した場合に、その損害を賠償させるための根拠であり、かつ競業会社への就業や競業会社を立ち上げる抑止力という主旨で記載すると考えてください。
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